レオどうぶつ病院腫瘍科ブログ

2017年4月17日 月曜日

犬の健康診断で見つかった脾臓の微小病変に対する細胞診     レオどうぶつ病院腫瘍科 たちばな台 桜台 みたけ台 桂台


脾臓に発生したしこりには血管肉腫という非常に悪性度の高い腫瘍が多く、しこりが破裂して腹腔内出血を起こして緊急に脾臓摘出することが多いのですが、近年の画像診断の普及により健康診断で脾臓の小さなしこりを発見することもしばしば出てきました。
画像からその病変が血管肉腫なのかどうかはわかりません。早期治療ということで小さな病変のうちに脾臓摘出するべきか悩ましい所です。脾臓は破裂など重大な問題が生じた際には丸ごと摘出可能な臓器であり、脾臓がなくなるとその機能は肝臓などが代用すると言われていますが、摘出する前にもう少し手がかりがつかめればと思っています。

健康診断により脾臓に小さな結節の見つかった犬の2症例をご紹介します。

症例1 トイ・プードル 雄(去勢)9歳
健康診断の腹部エコー検査で脾臓にφ0.7㎝の結節を認める。増大傾向を経過観察とする。


6か月後の再診時、脾臓の結節は消失。



症例2 パピヨン 雄(去勢)9歳
健康診断の腹部エコー検査で脾臓にφ0.4㎝の結節を認める。増大傾向を経過観察とする。


1か月後の再診時φ0.5㎝に増大。


8か月後の再診時φ0.7㎝に増大。

悪性腫瘍の疑いもあり、早期の脾臓摘出も検討の結果、
鎮静麻酔をかけてエコーガイド下で針吸引細胞診を行った。
外注の細胞診結果は脾臓の結節性過形成疑いであった。
良性病変の疑いであるため今後も経過観察とした。

今回、臨床症状もなく健康診断で見つかった脾臓の小さな結節の見つかった2症例に対して脾臓摘出ではない手技で対応しました。
症例1は自然消失。症例2は良性病変の疑いで経過観察中です。

最近の報告では小型犬の多い日本においては、脾臓のしこりが血管肉腫である確率は以前言われていたよりは低く、健康診断で見つかった微小病変には良性病変も含まれると考えられます。
そこで当院では脾臓に見つかった小さな病変に対しては増大傾向を観察し、増大傾向が認められる場合には、細胞診をお勧めしています。
細胞診の結果がその後の治療法選択に有用である可能性があります。
腹腔内のしこりに針を穿刺することには出血のリスクが伴います。術前に血液凝固検査を確認することが推奨されます。


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2017年4月 5日 水曜日

犬の脾臓巨大腫瘤破裂の緊急摘出術 レオどうぶつ病院腫瘍科   若草台 桂台 たちばな台 桜台 


9歳齢雄のビーグルが昨夜から元気も食欲もなく、震えていると来院しました。
診察では腰を丸めた姿勢で腹部に圧痛を認めました。
約一年前に急性膵炎となり、以来低脂肪食の食事療法を継続していました。
血液検査を行うと膵酵素のリパーゼと炎症の指標であるCRPの著増を認めました。
急性膵炎の再発を疑い、点滴治療を開始し、痛み緩和にフェンタニルパッチを貼って強力な鎮痛を行ないました。

翌日、レントゲン検査により腹腔内巨大腫瘤の存在を確認しました。
腫瘤はφ14×11×10㎝で腸管を背側、左側に圧迫し脾臓の腫瘤を疑いました。


超音波検査では脾臓腫瘤の周囲に液体貯留を認め、腫瘤からの腹腔内出血を疑いました。
昨日35%だった血液の濃度が26%となっており、持続的な出血により数日内に出血死することが予想され、緊急手術を行ないました。




術前の様子。腹部が腫脹しているのは太っているからではなかったのです。


摘出した脾臓。水色の線の部分に大きなしこりが発生しており、破裂して持続的に出血していました。
巨大なしこりはもろい組織で、摘出の際にちぎれて更なる出血が予想されたために、先に脾臓への血流を遮断してから摘出を行ないました。


脾臓辺縁から発生していたしこりは500gでした。
表面には腹膜組織が癒着し、出血を繰り返していたことが予想されました。

その後、貧血の改善と共に元気を取り戻しました。
リパーゼやCRPも正常化し、脾臓腫瘤破裂による二次的な膵炎であったことが予想されました。
病理検査の結果は過形成性結節であり、良性病変であったために完治しました。

本当はこんなにスマートだったのですね。

脾臓に発生するしこりには血管肉腫など非常に悪性度の高い腫瘍が多いのですが、良性病変であってもこのように大きなしこりを形成し、破裂して腹腔内出血をすることで命を落とす危険があります。また、術前にはそのしこりが血管肉腫などの悪性腫瘍なのか、今回のような良性病変であるかは画像では判別できません。

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