レオどうぶつ病院腫瘍科ブログ

2019年10月 5日 土曜日

高齢のゴールデン・レトリーバーに発生した軟部組織肉腫の外科切除とカルボプラチンによる補助的化学療法


13歳半のゴールデン・レトリーバーの前胸部にしこりが増大してきました。

以前より体表部には複数の脂肪腫が存在していますが、今回のしこりはやや弾力性があり、増大傾向があります。
細胞診を行うと紡錘形の細胞を多数採取。

周囲に存在する脂肪腫とは明らかに違い、軟部組織肉腫が疑われました。
高齢であることからこのまま経過を観察していくのか、思い切って手術をするのか悩まれています。
多くの軟部組織肉腫は転移性は低いものの局所浸潤性が強く、外科切除後の再発率が高いと言われています。
しかし、一部の悪性度の高い軟部組織肉腫では転移率も高くなります。
そこで、もう少し太めの針を使った組織生検を行って軟部組織肉腫の悪性度(グレード)判定をすることとしました。ここまでは麻酔も必要なく検査が出来ます。

病理組織検査の結果は軟部組織肉腫のグレードⅠ(低悪性度)と診断されました。しかし、大きなしこりの一部から採材した組織では全体像を見たときに悪性度が変更になる可能性もあるとのことでした。
さんざん悩みましたが、その間にもしこりは増大を続けていることから手術をすることとしました。

レントゲン検査では現時点で転移所見はありません。腫瘤は軟部組織陰影で境界は比較的明瞭です。
触診では底部組織に一部固着があります。

麻酔下で剃毛後、腫瘤に切開ラインを描きました。

腫瘤底部の大部分は剥離が可能でした。固着部分を剥離し、栄養血管を処理して切除しました。

広範囲な切除創となりましたが、皮膚に余裕がありますので閉創可能でした。

切除した組織は病理組織検査の結果、軟部組織肉腫と診断されました。
術前生検時の悪性度はグレードⅠでしたが、術後検査ではグレードⅡと診断されました。
グレードⅡやⅢの場合、再発率や転移率が上がります。

術後の改善は良好です。抜糸後より再発や転移を押さえる目的で補助的化学療法を始めることとしました。

化学療法後も副作用もなく、元気に過ごせました。
本日は2回目の化学療法。しばらくは3週間に一度の抗がん剤治療をゆっくり続ける予定です。

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2019年8月 9日 金曜日

鼻鏡部に発生し扁平上皮癌を疑った犬の非腫瘍病変        レオどうぶつ病院 腫瘍科


犬や猫の鼻鏡部に発生する代表的な腫瘍に扁平上皮癌があります。

発生当初は色素脱や膨隆から始まり増大すると潰瘍状に自壊します。
治療は初期には積極的な外科療法が効果がありますが外貌の変化も伴います。
進行すると外科切除困難となり、自壊創からの出血などによりQOL(生活の質)が下がります。
放射線療法は緩和的効果であり、化学療法による縮小効果は望めません。

今回、鼻鏡部の扁平上皮癌を疑ったものの良性病変であり、自然消失した症例をご紹介します。

15歳の雑種犬。体重は27kgあります。高齢による前庭疾患と慢性腎臓病の経過観察中です。
2日前に普段は黒い鼻鏡部の一部が白っぽく脱色しているのに気付きました。

10日後、脱色部は徐々に増大してきました。
まずは化膿性病変の除外に抗生物質の投薬を開始しました。

抗生物質には反応せず、増大した腫瘤表面が自壊してきました。
扁平上皮癌など腫瘍も疑い細胞診を行いました。
細胞診では少数の細胞集団が採取されましたが、明らかな悪性所見は認められませんでした。
診断を進めるには大きな組織による生検が必要でした。

しかし、病変に気付いてから約1か月。しこりは縮小し始めました。

約2ヵ月後には色も元に戻りました。
オーナー曰く、草むらに鼻を突っ込んで蜂にでも刺されたのかもしれないとのことでした。
本当にそうだったのかもしれません。

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2019年7月27日 土曜日

高齢猫に増大した乳腺腫瘍の管理 猫用エリザベスウェア     横浜市青葉区 レオどうぶつ病院 腫瘍科


犬の乳腺腫瘍は良性と悪性の比率が半々ですが、猫の乳腺腫瘍8割以上が悪性であると言われています。
悪性の乳腺腫瘍は進行すると肺転移を起こしますので、なるべく早期にしこりだけでなく、片側乳腺組織全切除をすることが効果的です。

症例は21歳の超高齢猫さん。人の年齢では100歳になります。
数ヶ月前に見つけた腹部のしこりが急速に増大してきました。

来院時、右第4乳腺部にφ3.4×2.8cm
本人も気になって舐めるので、しこりの表面は自壊しています。
猫の悪性乳腺腫瘍を疑い、治療法を検討しました。

腫瘍の進行度からは肺転移が出てくる可能性があります。
21歳の高齢であることからオーナーとの相談の上、積極的な外科切除は行わず、QOL(生活の質)の維持に努めることとなりました。

自壊した腫瘍の保護に、ぴったりサイズの猫用エリザベスウェアをご用意しました。
毎日の創部の処置時にはすぐに脱がせることができ、着用したまま排泄も可能です。

エリザベスカラーを装着するストレスもないので、服を着ることに抵抗のないネコちゃんにはお勧めです。

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2019年7月15日 月曜日

犬の全身に多発する脂腺腫瘍 体表腫瘍 外科切除        レオどうぶつ病院 腫瘍科


13歳のアメリカンコッカースパニエル。8年前に左上唇部にφ4mm大のしこりを発見しました。
体表にはイボ様のしこりが多発しており、経過観察を行いました。
左上唇部のしこりは増大して自壊・出血を繰り返し、6年前と3年前に結紮処置を行ています。
結紮後しこりは脱落して、しばらくは落ち着いていますが、徐々に再増大してきます。

今回は2ヵ月前より増大により自壊し、出血を繰り返していまいた。
今回は増大速度も比較的速く、しこり表面の崩れ方も強く悪性腫瘍の可能性も疑われます。
しこりは今までになく大きくφ2.4×1.8×1.0cmとなっていましたが底部組織への固着は認めず、外科切除を検討しました。

同時に左腋窩部に増大してきたφ3.2×2.8×2.2cm大の皮膚腫瘤と、左頬部のφ1.0cm大の腫瘤、そして左上眼瞼の自壊・出血を繰り返す小腫瘤の切除を行いました。



病理組織検査の結果はいずれも脂腺組織に由来する腫瘍性病変であり、多中心性脂腺腫・脂腺上皮腫と診断されました。
腫瘍の転移性は極めて低いものの、再発が多く診られる腫瘍であり、経過観察が必要です。

術後、出血はなくなり、生活の質の向上が認められました。

術後5ヵ月、術創も分からなくなりました。
先日、14歳のお誕生日を迎えました。

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2019年6月15日 土曜日

健康診断で見つかった肝臓腫瘤の摘出 肝臓に発生した形質細胞腫 腹腔内腫瘤破裂 髄外性形質細胞腫   レオどうぶつ病院 腫瘍科


13歳のゴールデンレトリーバー。フィラリア検査と同時に行った血液検査で軽度の貧血が見つかりました。
一般状態は良好ですが、毎年行っている血液検査の結果と比較して、貧血傾向が認められたのが気になりました。
その他の血液検査項目は腎臓も肝臓も正常範囲でした。血尿や、血便・タール状便など出血を疑う所見はありません。
そこで腹部エコー検査を行うと、腹腔内にφ7cm大の球形腫瘤を認めました。

腫瘤は脾臓と肝臓の先端に接していましたが、どちらにつながっているかは確定できませんでした。
いずれにしても腫瘤破裂による腹腔内出血の可能性がありました。

腹腔内腫瘤は悪性腫瘍の可能性もありますが、胸部X腺検査では現時点で肺転移を疑う所見はありません。腹部X線検査では胃の尾腹側に存在し、脾臓と肝臓の辺縁に接触していましたがどちらから発生しているかは断定できません。
肝臓腫瘍であった場合には血液検査の肝臓パネルが上昇しそうなものですが値は正常であり、脾臓の腫瘤破裂による腹腔内出血を第一に疑いました。たとえ肝臓から発生していた場合でも外科切除は可能であると判断し、腹腔内腫瘤摘出術を行うこととしました。

手術の目的はしこりが悪性腫瘍でも良性病変であっても、この後の再破裂による出血死を回避するのが第一の目的です。摘出した腫瘤を病理検査に出して結果により術後の補助療法など治療の作戦を立てるのが次の目的です。
術前の血液検査では貧血は改善傾向にあり、腫瘤からの出血は止まっているものと考えられましたが、腫瘤の自壊部と周囲組織との癒着も予想されました。

腹部正中を切開すると腫瘤が確認できました。まずは腫瘤周囲を慎重に触診すると、脾臓ではなく肝臓の辺縁より発生していることが分かりました。腫瘤の自壊部分には周囲の大網膜の癒着が認められました。まずは癒着部分を慎重に結紮離断していきました。

癒着部分が離断できると腫瘤を腹腔外に引き出し肝臓との付着部のチェックをしました。
腫瘤の基部は約4cm。肉眼上正常な肝臓の部分で切除しました。

切除した腫瘤は重さ139g。φ9×8×6cm大であり、術前の画像診断より増大していました。
後日、病理組織検査では血液系腫瘍(形質細胞腫瘍)疑いであり、後日免疫染色により髄外性骨髄腫と診断名がつきました。

同時に左大腿部に数年かけて増大した皮膚腫瘤も切除しました。
腫瘤内には膿汁が貯留し、病理組織検査では低悪性度の悪性毛包上皮腫と診断されました。

術後9日、抜糸に来院しました。元気も食欲もいつも通り。

骨髄に浸潤し全身症状を伴う形質細胞の腫瘍を多発性骨髄腫といい、抗がん剤治療が適応となります。
一方、皮膚などに限局した髄外性形質細胞腫は外科切除により治ることも多いのですが、形質細胞腫が肝臓に限局して大きなしこりを形成するタイプは調べる限り報告がなく、その予後は不明です。
今のところ多発性骨髄腫に随伴する高グロブリン血症や、それに起因する高カルシウム血症や腎不全、血球減少症、出血傾向などは認められません。
そこで皮膚などの髄外性形質細胞腫と同様に、術後化学療法は行わずに経過観察としました。

今回は、血液検査で貧血に気付いたことから腫瘍の発見に結びつきました。
軽度の貧血だったため、定期的に血液をチェックしていないとその変化に気付かなかったかもしれません。
また、健康診断にレントゲンやエコーなどの画像検査を組み込む必要性も実感しました。

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