レオどうぶつ病院腫瘍科ブログ

2014年7月12日 土曜日

切除困難な犬の肥満細胞腫グレードⅡへのイマチニブの効果


11歳の柴犬 オス(去勢済み)
3年前に左眼の結膜炎に気付いた。左眼外眼角の結膜は充血し腫脹していた。抗生物質とステロイドの合剤である眼軟膏の塗布で改善傾向が見られた。その後も時々同部位が腫れることがあり、同様に眼軟膏の塗布で改善していた。

発見から約1年が過ぎたころにはしこりはφ0.7cm大で、眼軟膏を付けても縮小しなくなっていた。時々引っ掻いて出血することもあり、外科切除をすることにした。

術後の経過は良好であったが、病理検査結果は肥満細胞腫グレードⅡであった。検査結果のコメントを見ると悪性度が強くグレードⅢに近いと記載されていた。
犬の肥満細胞腫はすべて悪性であるが、悪性度(グレード)がⅠ~Ⅲに分類されている。比較的悪性度の低いグレードⅠでは外科切除により完治する可能性もあるが、グレードⅡでは再発率は44%。4年生存率は45%と報告されている。グレードⅢに近い本例では予後は更に悪い事が予想された。


術後2週間目に抜糸をした。創はきれいに癒合していたが、残存する腫瘍細胞から早期に再発してくることが予想された。眼球摘出を含む拡大切除も選択肢としてお勧めしたが、希望により術後の補助的化学療法を行うこととした。


術後4週目には術創部は分からないほどに落ち着き、再発も認めなかった。
犬の肥満細胞腫で標準的なビンブラスチンとプレドニゾロンによる化学療法を6カ月間行った。
治療中は再発を認めず、問題となる様な副作用も起こらなかった。

術後8カ月半で同じ部位に局所再発を認める。腫瘤は眼結膜だけでなく外眼角皮膚面にも存在していた。

再びステロイドの眼軟膏を使用したが増大傾向が認められ、手術から1年経った時点で分子標的療法を試すこととした。

一部の肥満細胞腫においてc-KIT遺伝子に変異が認められる。変異の認められる肥満細胞腫に対して分子標的薬であるイマチニブが効果を示す。遺伝子の変異が認められる割合はグレード(悪性度)が増すほど高く、今回はグレードⅢに近いグレードⅡということで期待が持てた。

分子標的薬であるイマチニブの治療を開始し、1週後には目やにが軽減し、2週後には肥満細胞腫の縮小を認めた。分子標的療法開始より1ヶ月後にはしこりは分からない程度に縮小した。その間に嘔吐などの副作用はなく血液検査での変化も認めなかった。

その後イマチニブの投与を1日おきとして継続した。分子標的療法開始5カ月目にはイマチニブの投与を3日に一度とした。しこりを発見してから3年、肥満細胞腫切除手術後1年9カ月、分子標的療法開始より9カ月現在、一般状態良好で肥満細胞腫は肉眼上確認しない。現在も4日に一度イマチニブの投与を継続している。

切除困難な広範囲の肥満細胞腫や、今まで長期維持が困難であったグレードⅡやⅢの肥満細胞腫でも分子標的薬により制御できる可能性がある。

分子標的療法は次世代の化学療法として人でも期待されている治療であり、犬では現在のところ肥満細胞腫、GISTなどでのイマチニブの効果が報告されている。

細胞の腫瘍化、増殖には分子レベルでの遺伝子異常が関連している。分子標的療法は変異を起こした分子をターゲットに作用する薬であるために、従来の抗がん剤に比べ効果が高く副作用が少ないのが特徴である。しかし、特定部位に変異が起こってない腫瘍には効果はなく、薬の値段が高い事が難点である。


本日、ワクチン接種に来院しました。調子良好です。

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2014年7月 1日 火曜日

汗腺嚢胞が長期の経過を経て腫瘍化した犬の1例


5歳齢、雄のウェルシュ・コーギーが腰部のしこりを主訴に来院した。しこりは左側腰背部皮下にφ2.6×2.3cmで存在していた。
細胞診を行うと内部から透明な液体が排出ししこりは消失した。吸引した液体には細胞成分は少なく、悪性所見は認めなかった。その後、増大を繰り返しその都度吸引排出を繰り返して維持していた。


治療開始より2年8カ月経ち、再びしこりの増大を認め、吸引処置を行ったが少量しか吸引できず、エコー検査では内部が多嚢胞状に変化している事を確認した。細胞診では炎症細胞と共に一部に細胞集塊を認めた。細胞に明らかな悪性所見は認められなかったが、外科的に切除をすることにした。




病理検査の結果は汗腺腺腫。汗腺の過形成病変が時間をかけて腫瘍に移行したものと診断された。切除後の経過は良好である。

先日、ワクチン接種に来院されました。

術後2カ月半が経ち、発毛して傷がどこだったか分かりにくくなっていました。繰り返していたしこりの再増大はなく、経過良好です。

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2014年6月24日 火曜日

細胞診や増大傾向だけでは分からない犬の乳腺腫瘍の良悪

症例① トイ・プードル  10歳 未避妊雌(出産歴あり)

4年前に発見したφ0.4㎝に乳腺部のしこりが徐々に増大。3か月前に急速増大し外科切除をお勧めしたが、しこりの内部に貯留した液体の吸引除去により軽度縮小し、貯留液の細胞診では乳腺炎を疑う所見があったため抗生剤の投与を行った。

その後も増大しては吸引除去を繰り返していたが、徐々にしこりが吸引除去できない内容に変化してきた。いずれにせよこのまま増大を続ければしこりの自壊から生活の質は落ちることが予想され、外科切除に踏み切った。

乳腺部には右側第3乳腺部φ1.4×0.9㎝と右側第4‐5乳腺部にφ5.8×3.8×3.3㎝の巨大な腫瘤が存在していた。術前の画像検査からは転移を疑う所見は認めなかった。悪性ならば進行度はT3N0M0ステージⅢの乳腺腫瘍を疑い、右側第3‐5乳腺切除とソケイリンパ節廓清を行った。



病理組織検査の結果はいずれも良性乳腺混合腫瘍であり、手術にて完治した。


症例② ミニチュア・ダックスフント  6歳 未避妊雌
10ヶ月前にφ0.9㎝大の乳腺部のしこりを発見した。細胞診にて上皮系細胞集塊を認め乳腺腫瘍を疑った。しばらく増大は認められなかったが、2か月前より増大傾向を認めたため外科切除をお勧めした。

腫瘤は右側第2乳腺部皮下に遊離して存在しφ1.3×1.2×1.0㎝大に増大していた。領域リンパ節や肺には転移を疑う所見はなく、悪性ならば進行度はT1N0M0ステージⅠの乳腺腫瘍を疑い、右側第2乳腺部分房切除術と同時に今後の残存乳腺組織への新病変発生のリスクを下げる目的で卵巣子宮摘出術を行った。


病理検査の結果は悪性乳腺混合腫瘍であり、初期の段階での完全切除により根治の可能性もあり経過観察中である。


犬の乳腺腫瘍では良性であっても炎症を伴う場合や乳汁など液体の貯留がある場合には急速増大が認められる。一方、細胞診で明らかな悪性所見がなく比較的ゆっくりとした増大を認める場合でも今回のように悪性腫瘍のことがあり注意が必要である。

乳腺腫瘍を疑う場合には増大傾向や細胞診を含めた総合的な臨床所見から適切な手術時期を見極めること。進行度や年齢、基礎疾患の有無などから的確な手術目的の設定と術式の決定が大切である。

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2014年6月13日 金曜日

断脚手術を乗り越えて~犬の手根部に発生した線維肉腫

エルザちゃんの左前肢手根部に発生したしこりは急速に増大しました。

部分的な組織検査の結果は線維肉腫。
可能性に掛けて切除手術に挑みましたが、腫瘍は底部の筋肉や腱、神経や血管を巻き込んでいて残念ながら切除不能でした。

高齢になったエルザちゃんを今後どうするべきか飼い主さんと共に悩みました。断脚手術をすれば、がんは治る可能性もあるが術後の介護が必要になるのか。放射線療法ならば根治は期待できないが一時的にでも腫瘍の勢いを抑えて、余生は前肢を温存して過ごすか。考えている間にも腫瘍は増大を続け、遠隔転移のリスクも上がってきます。

しばらくして、飼い主さんが断脚手術を希望して再来院しました。たとえ寝たきりになっても最後まで介護する。飼い主さんには強い信念がありました。実はご主人の海外転勤を直前に控え、がんを乗り切って一緒に連れて行きたいという考えがあったのです。

断脚手術は無事成功。術後しばらくは自由に動けない時期もありましたが、日に日に元気を取り戻していく姿は、産まれたばかりの子犬が立ち上がって歩き方を覚えて行く姿のようだったそうです。今では名前を呼ぶとすくっと立ち上がり、散歩でも引っ張って行くほどに改善しました。寝たきり介護の心配はいらないようです。今後は関節の負担を考えて、さらにダイエットに励みます。

今日は初めてのグルーミング。リボンを付けてもらって、いつもの家でのシャンプーとはちょっと違います。

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2014年5月23日 金曜日

猫の前頭部節外型リンパ腫へのステロイド単独化学療法の効果


症例は日本猫12歳齢、避妊済雌。
1か月前より鼻のしこりが増大し来院した。

腫瘤は左眼内側の前頭部に存在し、
約3cm大に増大し硬く弾力性があった。
くしゃみや鼻水などの鼻炎症状はなく、
しこり以外の臨床症状はなかった。

悪性腫瘍を疑い各種検査を行った。
レントゲン検査では腫瘤底部の骨に溶解病変は認めず、
胸部にも異常を認めなかった。
血液検査を行ったが特に異常は認めなかった。

そこで前頭部腫瘤より細針吸引細胞診を行った。
大型のリンパ芽球様細胞を多数認めリンパ腫を疑った。
オーナーとの話し合いの中で、確定診断を付けるための
それ以上の詳細な検査は行わず、
診断的な治療を開始することとした。

L-アスパラギナーゼとプレドニゾロン(ステロイド)を投与すると、
帰宅後にはしこりが縮小し始めたとのことだった。

2日後に再来院した際にはしこりはほぼ消失していた。
劇的な治療効果からしこりは予想通りリンパ腫であると
考えられ、本格的な化学療法開始についてご説明した。

しかし毎回の来院のたびに車中では口を開けて舌を出し
ながらのパンティング呼吸と泡状の流涎が止まらず、
帰宅すると疲れ果ててしまう状態であった。
来院には重度のストレスが伴うことが予想されたため、
予定していた化学療法は中止し、
ご自宅でのステロイド剤の投与で維持することとした。

その後、外見上しこりは完全に消失した。
ステロイドは20日間投薬し休薬とした。

治療開始から4カ月半、前頭部のしこりが
再増大しリンパ腫の再燃を認めた。
前回同様の治療を再開した。前回同様に治療の反応は良く、
翌日には急速に縮小し数日の間にしこりは消失した。
今回も来院の車中では開口呼吸をし、
ストレスによる下痢もしたため、この後は
状態に応じて自宅でのステロイド投与を約1か月行った。

その後、治療開始より7ヶ月、8カ月、8カ月半で再燃を認め、
その都度ステロイドの投与で持ち直していたが、
徐々に効果が弱く、反応期間も短くなり、
治療開始より9か月目にご自宅にて亡くなった。


前頭部や鼻腔など、リンパ組織以外に発生する
節外型リンパ腫に対して化学療法や放射線療法単独でも
比較的長期間維持できることもある。
しかし、治療に反応しない場合や短期間で再燃することもある。
化学療法と放射線療法との組み合わせがより効果的であったとの報告もある。


猫は概してストレスを受けやすい動物であり、
来院や治療がストレスとなることも多い。
抗がん剤治療をする上で定期的な血液検査は、
敗血症などの副作用を出さないために重要な検査である。
しかし、今回のようにステロイド単独でもある程度の効果が
あるのならば、そこまで厳密な検査は必要とせず、ステロイドの
使い方を指導することで来院のストレスを減らすことができ、
猫にとってはより快適な治療となるのではないかと考えている。

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