n.化学療法

2020年3月10日 火曜日

15歳ミニチュアダックスに発生した下顎口唇腫瘍に対するブレオマイシン腫瘍内投与


15歳齢のミニチュアダックス。1ヵ月前に左下顎口唇部腫瘤に気付きました。

他院にて細胞診によりメラノーマと診断され、治療は難しいと言われて来院しました。
基礎疾患として以前より重度の歯周病があり、5年前に低アルブミン血症によりスケーリングを断念しています。
オーナーも高齢犬であることから外科手術などの積極的な治療は希望されていません。

初診時、腫瘤はφ2×3cm大で表面は自壊し出血しやすい状態にありました。
そこでオーナーと相談の上、犬に負担の少ないインターフェロン療法を行うこととしました。
犬のアトピー性皮膚炎の治療薬であるインタードッグ注を効能外使用となることを了承いただきました。
人では色々ながんに対してインターフェロン療法が行われていますが、犬で効果が認められた報告があるのは肥満細胞腫、悪性メラノーマ、リンパ腫などの一部の症例に限られています。
インターフェロン療法を行いながらも腫瘍は増大を続けました。

その後、腫瘤は急速に増大し、自壊と出血が認められました。
再度の対症的外科切除も検討しましたが、腫瘍は顎下の皮膚まで浸潤し、顎骨を含めた拡大切除が必要となります。
抗がん剤を使った化学療法も一般的には大きな腫瘍に対する効果は期待できません。
そこで抗がん剤の腫瘍内局所注射を試すことにしました。


ブレオマイシンは通常は皮下投与などで使用していますが、腫瘍内に注射をすることで局所での薬剤濃度上昇による効果を期待しました。また、以前より使用している抗生物質や非ステロイド系消炎鎮痛剤の投与は継続しました。

注射は無麻酔にて保定し、極細針を使用し腫瘍内に数方向刺入し注入しました。
ブレオマイシン注射の1週後には腫瘍の大きさの変化は認めませんでしたが、膿のようなにおいが強くなりました。

2回目のブレオマイシン腫瘍内局注後より徐々に腫瘍の縮小を認めました。
以下に治療経過の比較画像を示します。

2回目局所投与時。わずかに縮小傾向を認めました。


5回目局所投与時。明らかな縮小を認め、腫瘍からの出血や臭いも軽減しました。


8回目投与時。しこりは痕跡程度となり局所投与はできず、皮下投与としました。

ブレオマイシンによる化学療法の期間を通して明らかな副反応は認めず、白血球の高値や貧血は徐々に改善しました。

当院初診より5ヵ月。ブレオマイシン治療開始より3ヵ月現在。調子は良好で月に一度の検診を行っています。

追記
ブレオマイシンの最終投与より1年1ヵ月、16歳10ヵ月で亡くなるまで、腫瘍の再発はありませんでした。
口腔メラノーマに対してブレオマイシンの局所投与が効いたという報告は見当たりません。
その後、同様な口腔内腫瘍に対して飼い主さんの希望で何頭かブレオマイシンの投与を試しましたが、同じように効果を示したワンちゃんは残念ながらおりません。

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2019年10月 5日 土曜日

高齢のゴールデン・レトリーバーに発生した軟部組織肉腫の外科切除とカルボプラチンによる補助的化学療法


13歳半のゴールデン・レトリーバーの前胸部にしこりが増大してきました。

以前より体表部には複数の脂肪腫が存在していますが、今回のしこりはやや弾力性があり、増大傾向があります。
細胞診を行うと紡錘形の細胞を多数採取。

周囲に存在する脂肪腫とは明らかに違い、軟部組織肉腫が疑われました。
高齢であることからこのまま経過を観察していくのか、思い切って手術をするのか悩まれています。
多くの軟部組織肉腫は転移性は低いものの局所浸潤性が強く、外科切除後の再発率が高いと言われています。
しかし、一部の悪性度の高い軟部組織肉腫では転移率も高くなります。
そこで、もう少し太めの針を使った組織生検を行って軟部組織肉腫の悪性度(グレード)判定をすることとしました。ここまでは麻酔も必要なく検査が出来ます。

病理組織検査の結果は軟部組織肉腫のグレードⅠ(低悪性度)と診断されました。しかし、大きなしこりの一部から採材した組織では全体像を見たときに悪性度が変更になる可能性もあるとのことでした。
さんざん悩みましたが、その間にもしこりは増大を続けていることから手術をすることとしました。

レントゲン検査では現時点で転移所見はありません。腫瘤は軟部組織陰影で境界は比較的明瞭です。
触診では底部組織に一部固着があります。

麻酔下で剃毛後、腫瘤に切開ラインを描きました。

腫瘤底部の大部分は剥離が可能でした。固着部分を剥離し、栄養血管を処理して切除しました。

広範囲な切除創となりましたが、皮膚に余裕がありますので閉創可能でした。

切除した組織は病理組織検査の結果、軟部組織肉腫と診断されました。
術前生検時の悪性度はグレードⅠでしたが、術後検査ではグレードⅡと診断されました。
グレードⅡやⅢの場合、再発率や転移率が上がります。

術後の改善は良好です。抜糸後より再発や転移を押さえる目的で補助的化学療法を始めることとしました。

化学療法後も副作用もなく、元気に過ごせました。
本日は2回目の化学療法。しばらくは3週間に一度の抗がん剤治療をゆっくり続ける予定です。

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2019年3月19日 火曜日

血小板減少により鼻出血を認めた肝臓脾臓型リンパ腫の犬

13歳のミニチュアダックスが急に元気がなくなり、嘔吐と食欲低下を主訴に来院しました。 
血液検査より肝パネルの増高と炎症マーカーであるCRPの上昇、血小板減少を認めました。
レントゲン検査では肝臓と脾臓の腫大を認め、

エコー検査では肝臓と脾臓実質の模様の変化を認めました。

下痢と食欲廃絶のため点滴治療を行いましたが、入院中に鼻出血を認め、血小板が少ないために止血に苦労しました。

第4病日の血液検査では黄疸と血液凝固異常を認めDICの状態となり、2次診療の予約を取りながらもDICの治療とステロイドの投与を開始しました。
ステロイドを投与した夜より少しずつ食べ始めました。第8病日、2次診療施設にて肝脾型リンパ腫の疑いであり、予後不良であると診断されました。
このタイプのリンパ腫は治療反応に乏しいことが多いが、まれに効果があることもあるとのことでした。
診断日より可能性にかけた化学療法を開始しました。黄疸と血液凝固異常は徐々に改善し、DICの状態は脱しつつありましたが、好中球数の増高と急な低下を繰り返し、血小板減少に加え貧血も発現しました。状態は安定しませんでしたが、調子に合わせて使えそうな抗がん剤を選択して治療を継続しました。
治療開始から1ヶ月後、ほぼ寛解の状態となり体調も安定してきました。

肝臓・脾臓の腫大もなくなりスッキリとした体型に戻りました。

治療開始から間もなく6ヶ月。まもなく化学療法卒業の予定です。
難治性タイプであることから、徐々に治療の間隔を空けていくこととしました。

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2017年8月26日 土曜日

リンパ腫に対する6か月間の化学療法を卒業した6歳のパグ     ペットのがん レオどうぶつ病院腫瘍科 横浜市青葉区


うめぼしちゃんは6歳、雄のパグ。1週間前に左あごの下に小豆台のしこりを見つけました。
昨夜、急速にしこりが増大して来院しました。
食欲はあるものの、いつもの元気はありません。

来院時、顔面は腫脹し、全身の体表リンパ節の腫大を認めました。最大の大きさの左下顎リンパ節はテニスボール大で、あご下の方に連なっていました。

リンパ節の細胞診では採取した細胞のほとんどが大型のリンパ芽球でした。最も腫脹していた左下顎リンパ節からは炎症細胞を認めました。
レントゲン検査では肝臓の腫大と腰下リンパ節群の腫脹を認めました。
血液検査では好中球増多とリンパ芽球を多数認めました。
これら所見を総合して多中心型リンパ腫ステージⅤbと診断し、化学療法(抗がん剤治療)を開始しました。

リンパ腫は血液系腫瘍であり、しこりがありますが外科手術は適応となりません。全身性疾患であるため化学療法(抗がん剤治療)が第一選択の治療となります。いくつかの抗がん剤を併用する多剤併用療法がおこなわれます。米国では各大学ごとにリンパ腫治療のプロトコールがあり、治療成績を競い合っています。その多くのプロトコールでは約半年間の治療を行います。基本的に使用する薬剤は同じですが使うタイミングなどがそれぞれ違います。当院ではそれらを加味して患動物のその時々の状態により治療を組み立てています。

うめぼしちゃんはリンパ腫に対する多剤併用療法の最も基本的なプロトコールであるCOP療法を行いました。多剤併用療法では副作用の異なる抗がん剤を併用することで、重度の副作用が出ないように分散しながら、リンパ腫に対しては色々な方向からやっつける、使いやすく効果的な治療法です。

治療当初に急速に腫瘍が縮み始めたことで一時具合が悪くなりました。これを急性腫瘍溶解症候群と呼んでいます。リンパ腫は小さくなっているのに、急速に壊れた腫瘍細胞の影響で調子が悪くなるのです。うめぼしちゃんは初回のビンクリスチン投与の翌日にリンパ節が急速に縮小したのに合わせて元気消失、食欲減退、嘔吐を認めました。点滴治療により元気が出て、食欲も戻りました。
その後の治療では体調を崩すこともなく、6か月間の治療を終了しました。

スッキリと小顔に戻ったうめぼしちゃん。
今後は定期検診体制でリンパ腫の再燃に備えます。

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2015年5月12日 火曜日

メトロノミック化学療法 がんの休眠療法 ペットのがん 麻生区 町田市 青葉区

12歳のアフガンハウンドが左胸壁のしこりを主訴に来院しました。
既往歴として9か月前に下顎先端に発生した扁平上皮癌を高度医療センターにて顎骨切除しています。

しこりは硬く、Φ4×3.5×1.5cm大で底部固着が認められました。

胸部レントゲン検査ではしこりはクリップでマークした部位、左側第4-5肋骨の間に存在し、胸腔内に大きく突出していました(赤矢印)。
それとは別に左肺後葉領域にもしこりが存在しました(緑矢印)。

左胸壁のしこりの細胞診では優位な細胞は得られず、しこりの本体はより奥の胸腔内に存在することが予想されました。
また、左肺後葉に存在するしこりが胸壁に存在する悪性腫瘍の肺転移病巣なのか、胸壁のしこりとは関係のない肺原発の病変なのかで治療方針も変わってくる事が予想されました。そこで、高度医療センターで過去のCTデータと比較して精査することとしました。

高度医療センターでの精査では10か月前のCT検査でもいずれのしこりも確認されていましたが、増大傾向があるため腫瘍性疾患が疑われるとの事でした。
胸壁のしこりの病理組織検査の結果は肉腫NOS(非上皮性悪性腫瘍)と診断されました。
肺の病変の増大速度も比較的緩徐であることから原発性の肺腫瘍などが疑われましたが、深部に存在し組織採材にはリスクを伴うために診断は付けていません。


治療方針を検討した結果、飼い主さんは当院でのメトロノミック化学療法を希望されました。

メトロノミック化学療法はがんの休眠療法とも言われる低用量の化学療法です。
通常、化学療法は高用量を使用してがんを叩くのを基本としますが、高容量になると副作用も強く出ます。
根治の可能性の低い進行したがんでは強力な化学療法を行う事で患者の免疫を下げてしまう事が考えられます。
メトロノミック化学療法は低用量の抗がん剤を持続的に使用することでがんの増殖をゆっくりとさせ、がんと共存していく事を目的としています。高齢犬が寿命をまっとうするまでがんを休眠させて共存するのです。そのため、抗がん剤の副作用を出さないように調節して続ける事が大切です。

今回はシクロホスファミドという内服の抗がん剤とNSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛剤)の組み合わせを使用しました。
治療開始後も調子を崩す事もなく、NSAIDsの効果で歩行や起き上がりがスムーズになりました。
定期的な血液検査で腎臓のパネルの上昇傾向が認められたため、NSAIDsを減薬して継続しました。


治療開始1ヶ月後の胸部X線検査ではしこりはやや不明瞭になり増大は認めませんでした。
がんが明らかに増大しない事を目的としていますので、うまくいっていると考えられます。


治療開始から3カ月。がんと共存しながら調子良く過ごしています。

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