a.皮膚の腫瘍

2017年2月 7日 火曜日

犬の肛門周囲に発生した扁平上皮癌と肛門周囲腺腫        レオどうぶつ病院腫瘍科 青葉区 松風台 桂台 若草台


12歳齢、雄のペキニーズ。

4か月前に肛門左側に小さなしこりを発見しました。しこりは徐々に大きくなり本人も気にしてお尻をこするようになりました。
初診時、しこりの大きさはφ4.6×3.6×3.4㎝。
排便に時間がかかるとのことでしたが、直腸検査ではしこりによる直腸の圧迫はなく、腰窩リンパ節群の腫大はありません。しこりからの細胞診では細胞崩壊物が採取されました。
細胞診からは悪性の所見はありませんが、腫瘍の可能性は否定できません。しこりが悪性でなくても、このまま増大すれば自壊して生活の質が落ちることが予想されます。
そこで検査と治療を兼ねた切除生検手術をお勧めしました。
その後、しこりが自壊したため抗生剤による内科療法を行いました。
一時的に落ち着くものの自壊・排膿を繰り返し、いよいよ手術を検討しました。

初診より3か月、てんかんを疑う神経症状を観察しました。また、弁膜症を疑う心雑音も聴取しました。
しこりは自壊を繰り返しながらもφ2㎝大に縮小していました。そのしこりとは別に、肛門の周りに複数の肛門周囲腺腫を疑うしこりを新たに観察しました。
麻酔のリスクはあるものの、根本的な治療である手術に向けて心臓病の治療薬を開始しました。

初診より6か月、心臓病薬の投与により、横になってよく眠れるようになった。てんかんを疑う発作は観察されず、手術を行うこととしました。

手術は肛門左側のしこりの摘出を行いました。


散在する肛門周囲腺腫を疑うしこりに関しては去勢手術を行うこととしました。

術後、病理検査の結果は肛門左側のしこりは低悪性度の扁平上皮癌と診断されました。
また、精巣も腫瘍化しており、間細胞腫と診断されました。

その後、去勢手術の効果で肛門周囲に散在していた肛門周囲腺腫は縮小してきました。


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2017年1月20日 金曜日

悪性乳腺腫瘍の表層に肥満細胞腫が同時発生した犬の1例     レオどうぶつ病院腫瘍科 青葉区 鴨志田町 大場町 恩田町


11歳齢、雌のロングコートチワワ。昨夜、乳腺部のしこり見つけて来院しました。

腫瘤は右第5乳腺部皮下に存在し、皮膚や底部組織への固着は認めませんでした。
腫瘤はφ8×6㎜大で硬く、表層の皮膚には内出血斑がありましたが、気にして舐めているわけではなく、自壊もしていませんでした。

腫瘤の細胞診を行うとシート状に細胞集塊が採取され、存在部位から乳腺腫瘍を疑いました。
触診上、鼠径リンパ節の腫脹はなく、胸部X線検査で肺転移を疑う所見はありません。

T1N0M0 ステージⅠの乳腺腫瘍疑いと診断しました。

身体検査ではLevine6/6の心雑音を聴取し、心エコー検査で僧帽弁の逆流像を認めました。X線検査では心拡大に伴う気管の挙上を認めました。興奮時には常にチアノーゼを起こすとのことで、まずは僧帽弁閉鎖不全症の治療としてACE阻害剤の投薬を開始しました。

20日後の再診時、乳腺部腫瘤はわずかに増大しており、右の第3乳腺部にも5㎜大の小腫瘤を認めました。

重度心不全のために全身麻酔のリスクは高く、乳腺腫瘍に関しては経過を観察する選択肢を提示しました。
しかし、以前飼われていた犬を乳がんの肺転移で亡くしていた飼い主さんは、たとえ麻酔のリスクがあっても乳腺腫瘍の早期切除をご希望されました。

そこで、なるべく短時間で済ませるように乳腺部分切除術を行うこと、麻酔が安定していた場合には同時に卵巣切除術を計画しました。毎回の発情時に偽妊娠症状を示すとのことから、乳腺腫瘍の発生には性ホルモン分泌異常の関与が疑われました。

手術は心配した麻酔も安定しており、予定通り避妊手術まで行えました。

病理検査の結果
右第3乳腺部は良性腫瘍である乳腺腺腫。
右第5乳腺部は悪性乳腺混合腫瘍。
右第5乳腺部の表層の内出血部位は肥満細胞腫グレードⅠ-Ⅱと診断されました。

術後の経過は良好で、術後1年が過ぎた現在、再発や転移は認めず元気に過ごしています。

今回、乳腺腫瘍の表層の皮膚に肥満細胞腫が発生した珍しいケースですが、乳腺腫瘍と肥満細胞腫の発生に直接の関連があるという報告はありません。術前の細胞診では硬いしこりの部分に針を刺入したため乳腺腫瘍の細胞のみが採取されましたが、表層の内出血のある部分を吸引していたら肥満細胞腫が術前診断できていたかもしれません。肥満細胞腫と分かっていた場合には、もっと大きく切除することを検討したかもしれません。今回、短時間で小さな切除で済ませ、再発せずに済んだのはラッキーだったのかもしれません。

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2015年9月13日 日曜日

眼瞼腫瘍 組織球腫 ペットのがん 青葉区 麻生区

犬の上眼瞼に発生した腫瘍の切除とフラップ形成術

8歳のシェルティーの上まぶたにしこりが徐々に増大してきたと来院しました。
しこりは左上眼瞼にφ4×3.5×3㎜大で赤くドーム状に膨らんでいました。
細胞診を行うと、透明な細胞質を持つ円形細胞が多数採取され、組織球腫などを疑いました。
組織球腫は数か月の経過で増大し、やがて自然に退縮し消失することが多い良性腫瘍です。
そこでしばらく経過を観察することとしました。


約1か月半が経過し、しこりは徐々に増大してφ8×7×4㎜大となり、本人も気にして引っかいて傷つけてしまうようになりました。
再度、細胞診を行い病理検査センターに診断してもらった結果、形質細胞腫と診断されました。
形質細胞腫は組織球腫と同様に良性腫瘍ではありますが自然退縮はせず、増大し続けるために外科手術を行うこととしました。

発生部位が上眼瞼であることから拡大切除すれば目が閉じなくなるなどの機能障害が起こる可能性もあります。
そこで、瞼の機能を温存できるフラップ形成術を行うこととしました。

腫瘤は結膜側への固着はなく、眼瞼辺縁をわずかに残して切除できました。
作成したフラップ(皮弁)を矢印の方向に移動して欠損部をふさぎ、眼瞼辺縁と縫合しました。

手術翌日の退院時には術創周囲は腫脹していましたが、日毎に腫脹は軽減して2週間後の抜糸に来院したときには正常な眼瞼の機能が認められました。



術後の病理検査結果では、腫瘍は取り切れており組織球腫と診断されました。

細胞診では組織球腫と形質細胞腫の判別が難しい場合もあるようです。

術後の経過は良好で術後6か月現在、再発も認められません。

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2015年1月13日 火曜日

基礎疾患を抱えた犬の形質細胞腫に対する無麻酔での結紮処置

16歳のジャックラッセルテリアの額にしこりができました。体には同様のイボがいくつも認められます。
このワンちゃんは副腎皮質機能低下症(アジソン)、甲状腺機能低下症、皮膚肥満細胞腫、慢性腎不全などいくつもの病気の療養中であるために経過観察をしていましたが、額のしこりは徐々に増大しました。本人も気にして引っ掻いて出血するようになり、まずは細胞診を行うこととしました。


細胞診では透明度の高い細胞質を豊富に含む円形細胞を多数採取し、腫瘍性病変を疑いました。
病理診断医により形質細胞腫の可能性が疑われました。
形質細胞腫は良性の腫瘍ですが、徐々に増大し今後更にQOLを落とすことが予想されました。
しかし、全身麻酔などのストレスをきっかけにホルモンのバランスが崩れたり、腎不全が悪化することが予想されます。
しこりの形状は基部にくびれのある有茎状であったために、局所麻酔による結紮処置を行うこととしました。

腫瘤基部の周囲に局所麻酔剤を極細針にて分注し局所麻酔をして、

外科用結紮糸にてしこり基部のくびれた部分を結紮。
これによりしこりへの血流が遮断され、うまくいくと1-2週間でしこりは脱落します。
同時に左前肢の手首にあったイボも結紮しました。

2週間後の来院時にはしこりは脱落しており、付け根の部分がかさぶたになっていました。

手根部のイボは基部が太く、わずかなくびれしかありませんでしたが、うまく取れたようです。

結紮処置から1か月が経ち、しこりのあった部分に発毛し、分かりにくくなりました。
全身麻酔をかけずに処置ができたので体調を崩すこともなく、療養中です。

結紮処置では外科切除と違い基部の細胞が残るため再発のリスクがあり、通常は腫瘍病変には適応となりません。
しかし今後、再発してくるとしても、かなりの時間稼ぎになりQOLを改善することができました。
色々な理由で麻酔がかけられなかったり、手術ができない場合に結紮処置はひとつの選択肢になりえると考えられます。

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2014年8月 8日 金曜日

足底部のカリフラワー状腫瘤を結紮処置によりQOLが向上。

6歳齢、雌のフェレットの左後肢、足底部に2か月前に腫瘤が発生し、増大と共に自壊し始めた。

腫瘤はメインパッドの隣に張り付くように存在し、表面は不整で自壊・出血があり、カリフラワー状に拡がっていますが、良く見るとその基部はくびれがあり細くなっているようでした。
症例は現在、他疾患の治療中であり、まずは対症的に無麻酔での結紮処置を行うことにしました。

結紮には手術用の絹糸を使用しました。フェレットは飼い主さんに抱いていただきながら結紮が終了すると、腫瘤は紫色に変色しました。しこりへの栄養血管を遮断することにより腫瘤は徐々にミイラ化して、うまくいくと1~2週間でポロリと脱落する予定です。

10日後、腫瘤が脱落しました。予想通り基部は細く、約2mmほどの痕跡がありました。

しこりがなくなり動きが良くなったということです。このようにしこりの基部がくびれており、良性のイボのような病変を疑う場合には結紮処置が有効です。

しこりが腫瘍の場合には脱落した基部より再発をしますので、若い動物であれば外科的に完全切除することが望ましいと考えられます。高齢の動物や、基礎疾患により麻酔のリスクがある場合には、結紮処置は有効な治療法かもしれません。

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