ホーム > がん専門治療

がん専門治療

大学病院腫瘍科では多くのがんの症例との出会いがありました。

大学病院腫瘍科では多くのがんの症例との出会いがありました。
飼い主さんがしこりを見つけ、主治医の先生のもとで経過を観察し、がんの疑いがあると診断され、大学病院腫瘍科を紹介される。予約は数週間先までいっぱいで、来院した時には大分進行してしまう。
残念ながら治療の時期を逸してしまった症例もたくさん見てきました。治るかどうかは時間との戦いでもある“がん”。
目標としているのは元気な時から診察している主治医として、日頃の診療で早期に異常を見つけ、見つけたがんをすぐに専門治療することです。

定期健診でSOSを見逃さない

当院では誕生日の月にハガキで検診のお知らせをお送りしています
ハガキで検診のお知らせをお送りしています

がんには触っただけではわからないものもあります。
初期には症状がないことがほとんどです。
年に1回は画像診断を含む健診を行いましょう。
7歳以上の中高齢期には年に2回の健診をお勧めします。


持ち物
朝食(検査後ごはんをあげます) 検査用の尿+便を持参して下さい。

お誕生日検診の流れ
午前
  • お預かり。朝食を与えずにご来院ください。
  • 血液検査
  • 胸部、腹部レントゲン検査
  • 持参した食事を食べます。
午後
  • 健康チェック
  • 腹部超音波検査
  • お迎え
  • 健診結果をお話しします。
後日
血液検査の結果をお話します。

その他の特殊検査

画像検査
消化管造影X線検査(バリウム造影)

単純X線検査では確認できない胃内異物や通過障害などを確認することができます。閉塞所見から消化管腫瘍が確認できることもあります。

経静脈尿路造影X線検査

造影剤を静脈注射することにより腎臓から尿管を経て膀胱に至るまでの尿路を効果的に確認することが可能です。泌尿器系腫瘍では腎機能の評価として重要な検査項目となっています。

超音波検査(エコー検査)
超音波検査(エコー検査)2 超音波検査(エコー検査)1

単純X線検査で確認した腫瘤の内部の状態を確認します。カラードップラーを使うことにより腫瘍内部の血流の状態を把握することも可能です。

CT・MRI検査

脳・神経系の腫瘍、腫瘍の全身への播種などの精査に利用します。検査には全身麻酔が必要となります。大学病院等の専門施設をご紹介しています。

細胞診・病理組織検査
細胞診(FNA:針吸引細胞診)

しこりを見つけたらまずは細胞診を行います。診断名を付けるというよりはどのようなものが疑わしいか目星をつけるのです。細い注射針でしこり内部の細胞を採取しますので無麻酔で素早く判定が可能です。悪性が疑われる場合にはすぐに次の検査に移ります。判断に迷う場合には標本を病理診断医に判定してもらう外注細胞診や組織生検に進みます(結果まで約1週間かかります)。

組織生検(バイオプシー)
組織生検(バイオプシー)2 組織生検(バイオプシー)1

がんの診断名により治療法が大きく変わりそうな場合には、手術前に少し太めの針で腫瘍組織を採材する組織生検を行うことがあります。腫瘍組織には神経はなく痛みはありませんので基本的には無麻酔で検査が可能ですが、動くと危ない場合などには鎮静麻酔を使うこともあります。採材した組織は病理検査センターへ送り、約1週間で病理医による診断が得られます。

病理組織検査

手術で切除した腫瘍組織を病理組織検査することにより確定診断することができます。診断名の他に注目する部分は、切除マージンへの腫瘍細胞の有無(取り残しがないか)と腫瘍のグレード(悪性度)判定です。結果により術後の補助的治療(化学療法・再手術・放射線療法等)の必要性を検討します。
外部検査機関に委託し結果報告までに約一週間かかります。

特殊血液検査
血液凝固系検査

腫瘍性疾患では血液凝固異常やDIC(播種性血管内凝固症候群)が高率に認められます。特に手術前の検査としては重要です。

遺伝子検査
c-kit遺伝子変異検査

遺伝子の特定部位にがんによる変異が認められる場合にはイマチニブなどの分子標的薬が効きます。分子標的薬は現在のところ犬では肥満細胞腫やGISTなどで効果が認められています。

リンパ腫クロナリティ検査

リンパ腫の細胞をB細胞型かT細胞型か調べる検査です。リンパ腫のタイプを分類することで予後予測や効果的な薬を選択できます。

がんの治療方法と長所と短所

がんの3大療法

治療法治療内容長所短所
1.外科療法
(当院で行います)
手術により腫瘍を切除。通常はがんの治療の第一選択。早期の腫瘍切除で根治の可能性あり。各治療法の中で最大の効果。拡大切除により機能障害が起こる可能性あり。手術費用は高いが、一回の手術で根治するならトータルでは安いかも。
2.放射線療法
(大学病院で行います)
放射線を照射し腫瘍の増大をゆっくりさせる。外科切除後の残存細胞を死滅させる。外科切除が難しい部位に照射し、機能を温存することが出来る。放射線障害がでる可能性あり。
放射線治療設備が必要。複数回の全身麻酔下での照射が必要。費用は高額になる。
3.化学療法
(抗がん剤治療)
外科・放射線療法後、再発や転移の可能性がある場合などに行う補助的な治療。抗がん剤が効きやすいリンパ腫などには第一選択治療。固形がんに対して単独では効果ない。抗がん剤の副作用のリスクあり。薬の種類や治療回数によっては高額になることもる。

腫瘍の種類にもよりますが、治療効果は一般的に下記のようになります。

外科治療 矢印 放射線治療 矢印 化学療法 矢印 補助療法

 

外科療法(当院にて行います)

外科療法(当院にて行います)

がんに対する最も効果的な治療は外科的な完全切除です。
がんの発生初期には完全切除により補助療法なしで完治する可能性があります。

腫瘍外科
そのしこりは切除できるのか?完全切除により根治を目指せるのか?完全切除は難しいが大部分の腫瘍を取り除き補助療法につなげる減容積手術なのか?拡大切除による機能障害が起こりそうか?など、術前の手術目的の設定と手術の見積もりが非常に重要となります。

悪性腫瘍は周囲組織への浸潤性が高いため、通常の手術とは違い広範囲に切除しないと腫瘍細胞を取り残すこととなり、再発により再手術が必要となります。手術を繰り返すことで切除の難易度は増し、その間に遠隔転移の可能性も高まります。そのため初回の手術が根治への最大のチャンスであると考えられます。腫瘍切除には解剖学的な知識が必要なだけでなく、拡大切除をした術創を閉じるためのフラップ形成術などの技術が必要となります。

手術体制
腫瘍外科には高齢でクリティカルな症例が多いため、なるべく短時間の手術を目指しています。術者と麻酔医の他に手術助手、器具助手、外回り助手と症例に応じて複数名でのチーム医療を実践しています。私たち手術チームは患者のために素早く、的確に手術できる様、日々訓練しています。

麻酔管理
手術中は生体モニターにより、心電図、心拍、血圧、呼吸、体温などを監視しています。心拍数や呼吸数、血圧の変化に応じて麻酔深度の調節をしています。手術中は血管内に点滴をして、必要に応じて緊急薬の投与も可能となっています。

2次診療
より高度な技術や設備が必要とされる症例には大学病院腫瘍科等の2次診療施設も紹介いたします。
当院の外科手術
骨肉腫のために、左後ろ足を断脚をしたラブラドールレトリバーちゃん。 飼い主さんの看護の必要はなく、苦痛から開放され3本足でしっかり歩けます。
断脚犬
治療をしてもなかなか治らない膝の痛み。骨溶解病変が見つかってからの飼い主さんの断脚への決断は素早いものでした。手術後は交通安全の服を着て毎日地域パトロール。子供たちの人気者です。
痛みのケア 腫瘍の症例紹介

化学療法(当院にて行います)

化学療法(当院にて行います)

化学療法とはいわゆる抗がん剤治療のことで通常は外科手術後の補助療法として行われます。
化学療法は大きながんの塊に対して単独では効果的ではありませんが、外科手術後の顕微鏡レベルの残存腫瘍細胞や初期の転移病巣形成に対する効果を示す全身療法なのです。

血液系のがんであるリンパ腫は他の固形がんに比べ抗がん剤がよく効きます。
リンパ節のしこりなどを特徴としますが、治療は外科手術ではなく第一選択は全身療法である化学療法です。
リンパ腫の細胞型により効果の差はありますが、いくつかの抗がん剤を組み合わせた多剤併用化学療法が主流です。
米国では各大学ごとに犬のリンパ腫に対する多剤併用療法のプロトコールがあります。
多くのプロトコールでは使用する薬剤は同じであり、使い方が違うだけです。

当院では各種抗がん剤の特徴を理解した上で、リンパ腫のタイプやその時々の患者の状態に合わせたオーダーメイドの化学療法を実践しています。

抗がん剤の副作用

抗がん剤は激しく分裂する細胞(がん)を攻撃する薬ですが、正常な体の中でも分裂の激しい細胞は影響を受け、それが副作用として現れます。抗がん剤の主な副作用は以下の3つです。

気になる抗がん剤の副作用
脱毛
→毛根部の細胞は分裂が激しく、人では抗がん剤の影響でバサッと毛が抜けたりします。犬では抜け毛が多くなったり、毛の生え方が遅いと感じる程度です。人と同じように散髪をしなければ伸び続けるトリミングの必要な犬種では毛の抜け方が多いようです。
こうした脱毛は抗がん剤治療が終了すれば生えてきます。

胃腸障害
→胃腸粘膜は3日に一度生まれ変わるぐらい激しく分裂しますので抗がん剤の影響を受けやすく、嘔吐や下痢といった症状として現れます。お薬でコントロールすることで辛い症状を出さずに治療を行うことが可能です。

骨髄抑制
→骨髄では毎日血液を作っていますので抗がん剤の影響を受けると白血球や赤血球、血小板の減少が起こります。減少しても外からは分かりませんので、治療の前後には血液検査を行うことが重要です。早期に血液の異常に対応すること敗血症など重度な副作用を出さずに安心して化学療法を続けられるのです。
メトロノーム化学療法(休眠療法)

一般に抗がん剤の使い方は、患者が副作用に耐えられる最大量を投与するのが効果的と言われます。そのため、人では強い副作用を抑えながら治療しますが、動物の場合は副作用に苦しみながら寿命が延びることがベストだとは私は思いません。最近人の方でも使われ出しているメトロノーム化学療法は副作用の少ないマイルドな化学療法です。

しかし、がんに対しても効果はマイルドで、目的はがんを小さくすることではなく増殖をゆっくりさせて休眠させ、がんと共存していくスタンスの治療です。当院でも飼い主さんとのお話の中でご希望があれば積極的に取り入れています。

分子標的治療

分子標的薬はがんの原因となっている分子にだけ作用するような薬剤であるため、従来の抗がん剤に比べてがんに対しては特異的に効果を示し、正常組織への影響は少ないのです。現在のところ犬で効果が認められている腫瘍には肥満細胞腫、GIST(胃消化管間質腫瘍)等があり、今後ますます発展する治療薬であると考えられます。

当院では犬や猫の肥満細胞腫等に対してイマチニブによる分子標的療法を行っています。全ての肥満細胞腫に効果が認められるわけでなく、c-kit遺伝子に変異が認められる場合に効果が認められます。c-kit変異を調べる遺伝子検査があります。また、肥満細胞腫の悪性度が高いほど遺伝子変異の発現率は高くなっており、悪いものほど効きやすい傾向があります。

ビスフォスフォネート

骨腫瘍がんの骨転移では骨吸収により病的骨折を起こし激しい痛みをもたらします。ビスフォスフォネートは骨吸収を阻害し、痛みを和らげます。高カルシウム血症にも効果があります。また、腫瘍そのものに対しても抗腫瘍効果が認められています。

放射線療法(麻布大学腫瘍科をご紹介します)

手術がむずかしい部位や危険性が伴う部位には放射線療法が治療の選択肢となります。

手術がむずかしい部位や危険性が伴う部位には放射線療法が治療の選択肢となります。放射線療法は腫瘍を小さくしたり、大きくなるのをゆっくりさせたり、痛みを和らげたりする目的で使用します。動物の放射線治療には全身麻酔が必要となり、1か月の間に複数回の照射が必要となります。照射回数が多い方がより腫瘍制御の効果が高いと言われています。腫瘍の種類によっても効きやすさの差があります。放射線治療が有効と考えられる場合には麻布大学腫瘍科をご紹介しております。麻布大学腫瘍科では国内最高レベルの放射線装置を備えています。

補助療法

光線温熱化学療法
腫瘍内にレーザー光を吸収する色素剤と抗がん剤を注入することでより効果を高めた光線温熱化学療法も行っています

温熱療法はがんを温める治療です。正常の細胞には耐えられる温泉に入るぐらいの温度でがん細胞は壊れてしまうことを利用した治療です。当院ではレーザー光を使用した光線温熱療法を行っています。
さらに腫瘍内にレーザー光を吸収する色素剤と抗がん剤を注入することでより効果を高めた光線温熱化学療法も行っています。

手術困難な胸腔内や腹腔内のがんに対する光線温熱療法も行っています。通常はレーザーを照射して奥の組織を温めようとすると表面部分が一番温められて低温やけどを起こしたりしますが特殊な照射装置を使うことにより奥の組織への照射が可能となりました。

免疫療法

がんの治療には自分でがんと戦う免疫力を高めてあげることが重要です。これら免疫療法は他の治療と組み合わせることで相乗効果が認められています。

インターフェロン自己の免疫を刺激・調節することで抗腫瘍効果をあらわす。
βグルカンサプリメント免疫を不活化させることで患者の生活の質(QOL)を高めます。
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)

ピロキシカムをはじめとするNSAIDsには消炎鎮痛効果のほかに、膀胱移行上皮癌、扁平上皮癌などいくつかのがんに対して腫瘍の増殖抑制効果が認められています。

栄養管理
栄養管理

腫瘍が進行すると体の中の代謝のシステムに変化が起こり、癌性悪液質という状態に陥ります。がんのほうが栄養を消費してしまい、食べれば食べるほど痩せてきてしまうのです。

がん患者に効果的な栄養補給はどのようなものでしょうか。がんは糖などの単純な栄養素を利用します。また糖にすぐに変わる炭水化物もがんが利用しやすい栄養素です。蛋白質の与えすぎも負担になると言われています。逆にがんが利用できない栄養素は脂肪なのです。特に海の魚などに多く含まれるオメガ3脂肪酸はがんに効果があると言われています。
そこで、進行したがんの犬や猫にはバランスのとれた総合栄養食にオメガ3脂肪酸をプラスして与えましょう。担癌動物の栄養管理に適した療法食もありますのでご相談ください。