レオどうぶつ病院腫瘍科ブログ

2021年6月26日 土曜日

病的骨折を伴う骨病変に対するビスホスホネートの効果

15歳、雌のラブラドール・レトリーバー。4ヵ月前より左後肢をかばっていました。
主治医の元でレントゲン検査にて、股関節周囲が溶けていると言われ断脚を勧められ、現在は痛み止めの内服をおこなっています。
3日前に後肢のマッサージをしていたら骨が折れるような音がして、立ち上がることができなくなったと来院しました。

レントゲン検査を行うと左大腿骨遠位(膝に近い方)にて骨折していました。
また、矢印で示す大腿骨近位(股関節に近い方)は骨溶解を認め、その周囲(左臀部)は硬く腫脹していました。
血液検査では骨病変の影響と思われるALPの上昇とCRPの上昇、軽度の貧血を認めました。

臀部の腫脹部より細胞診を行いました。骨肉腫であれば断脚をしても根治は困難であることからオーナーは痛みの緩和ケアを希望しました。
後日、細胞診の結果は異型性の強い紡錘形細胞を少数認め、発生状況などを加味すると骨肉腫などの非上皮性悪性腫瘍の可能性が疑われました。
そこで骨折による痛みの改善と骨溶解部の再化骨化を期待してビスホスホネート(ゾレドロン酸)の投与を行いました。

1回目の投与から2週間後、ビスホスホネートが著効し、痛みが改善し歩き始めました。
レントゲン検査では骨折部はズレていましたが、わずかに石灰化を認めました。
股関節の骨溶解部にもわずかに石灰化を認めました。

治療開始から7週間。3回目のビスホスホネート投与を行いました。
左大腿骨の骨折部と骨溶解部は更に石灰化が進み、太い頑丈な骨となっていました。

前回よりもスムーズに歩けるようになっていました。
左股関節直上の臀部硬結病変は縮小傾向を認めました。
今のところ肺転移を疑う所見もありません。

骨溶解と病的骨折を起こした骨病変が骨肉腫であったのかは確かではありませんが、ビスホスホネートは骨溶解病変や骨折部の骨増生と痛みの緩和には劇的な効果を示しました。今後は快適な余生を過ごせるように維持できると良いですね。

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2021年6月16日 水曜日

ACNU投与が奏功したバーニーズの肺に発生した組織球肉腫


花梨ちゃんは7歳のバーニーズ・マウンテンドッグの女の子。健康診断で肺のレントゲンにしこりを認め、細胞診により組織球肉腫が疑われ、当院に紹介受診しました。
当院初診時、胸部レントゲン検査にて右肺中葉領域に不透過像を認めました。

臨床症状はなく、血液検査でも大きな異常は認めません。麻酔をかけての確定診断は希望されず、犬種と細胞診の所見から肺に発生した組織球肉腫と臨床診断し、治療を開始することとしました。組織球肉腫は局所療法として肺葉切除を行うこともありますが、多くの場合は早期に再発や転移が起こり播種性組織球肉腫に移行するため、全身療法である化学療法を行います。しかし、抗がん剤の反応は悪く診断後の予後は厳しいと言われています。
さまざまな抗がん剤の中でCCNUという薬の効果が報告されています。
そこでCCNUによる化学療法を開始することにしました。

輸入薬であるCCNUはコロナの影響もあり現在入手困難となっています。
4週に一度のCCNUの治療は心配した大きな副作用もなく行うことができました。
その頃、お家にはもう一頭の若いバーニーズの女の子、リロちゃんを迎えました。一緒に遊んだりすることで、花梨ちゃんは今まで以上に元気が出てきました。

治療開始から2ヵ月。3回目の投薬をする頃には肺の病変が縮小しました。
CCNUは腫瘍の縮小効果を認めましたが、血液検査で副作用の一つである肝臓の数値の上昇を徐々に認めました。
そこでCCNUの投与は3回で終了し、その後はACNUに切り替えることとしました。

ACNU(ニドラン注)は日本の薬であり、入手困難となったCCNUに替わる薬として使われ始めています。
3週に一度、静脈注射を行いました。心配した副作用は認めず、肝臓の数値も徐々に改善しました。
3回目のACNUを投与する頃には旅行に出かけたりして、元気に8歳の誕生日を迎えました。

治療開始から5ヵ月。5回目のACNUを投与する頃には肺の病変がわずかに目立ち始めました。
本人は至って元気で、リロちゃんと毎日散歩をしていました。

治療開始から6ヵ月。7回目のACNU投与の頃には、喉が絡んで咳をするようになりました。レントゲンでは肺の病変の増大を認めました。
肺炎予防の薬の内服を始めました。

治療開始から7ヵ月。熱が高くなり食欲が落ちる日があり、抗がん剤治療は中断しました。
肺炎の治療として自宅でのネブライザー療法を開始しました。
一時、血便になり食欲もなくなりましたが、ネブライザー療法の効果が出て呼吸は安定し、少しずつ食べるようになりました。
状態は大分安定し、もう一度可能性にかけてACNUを投与しました。
その後も落ち着いていたため、久しぶりのグルーミングの予定や、次の旅行も計画していました。

治療開始から8ヵ月。その日も大好きなジャーキーを沢山食べて落ち着いていましたが、夜間に苦手な雷をきっかけに呼吸が苦しくなりました。ネブライザーの吸引により呼吸は落ち着き眠ることができましたが、未明に穏やかに息を引き取りました。

バーニーズやフラットに好発する組織球肉腫は、急速に進行して早期に亡くなることが多い病気ですが、今回ACNUの投与により8ヶ月間ではありましたが延命することができました。その間、元気に旅行に行ったり、飼い主さんと楽しく過ごした時間は貴重なものだったと思います。
花梨ちゃんのご冥福をお祈りいたします。(6/26加筆しました)

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2021年6月 7日 月曜日

ER八王子腫瘍科での診療

2021年6月より病院の休診日を水曜日から木曜日に変更させていただきました。
木曜日には2次診療施設「ER八王子動物高度医療センター」の腫瘍科にて客員獣医師として非常勤で診療いたします。

麻布大学腫瘍科の恩師である信田先生、川村先生のもとでの腫瘍診療は久々ですが刺激的です。
当院では手に負えないような重症腫瘍症例をご紹介可能です。
術前のCT検査にて手術が不適応となった場合には、そのまま麻布大学附属動物病院にて放射線治療に速やかに移ることが可能となっています。

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2020年7月 7日 火曜日

雑誌「いぬのきもち」メラノーマ特集を監修しました

雑誌「いぬのきもち」の連載記事「犬の現代病ファイル」。8月号はメラノーマがテーマ。記事の監修をいたしました。

メラノーマは悪性黒色腫とも呼ばれるメラニン細胞のがんで、体中のどこにでも発生しますが、犬では口と皮膚と目が好発部位で、できる場所によって悪性度の違いなど特徴があります。

発生部位ごとの好発犬種を病理検査会社ノースラボの賀川先生に、データ提供いただきました。

悪性度の高いメラノーマが多く発生する部位には爪床部(爪の基部)や口腔内などが挙げられます。
中でも口腔メラノーマは気付きにくく、発見が遅れることが多いのです。
治療法は早期に発見できれば外科切除、周囲浸潤があったり切除の難しい部位では放射線療法が適応となります。
また、転移性の高い腫瘍でもあるため、それぞれの治療法に全身療法である化学療法(抗がん剤治療)の併用を考慮します。

腫瘍の拡大切除や放射線療法などは大学病院等の2次診療施設の受診が必要となるかもしれません。
いずれにしても早期に診断、治療までつなげるかが、治療の重要なポイントです。

各治療法のケースレポートも載せてありますので、ご参照ください。

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2020年3月10日 火曜日

15歳ミニチュアダックスに発生した下顎口唇腫瘍に対するブレオマイシン腫瘍内投与


15歳齢のミニチュアダックス。1ヵ月前に左下顎口唇部腫瘤に気付きました。

他院にて細胞診によりメラノーマと診断され、治療は難しいと言われて来院しました。
基礎疾患として以前より重度の歯周病があり、5年前に低アルブミン血症によりスケーリングを断念しています。
オーナーも高齢犬であることから外科手術などの積極的な治療は希望されていません。

初診時、腫瘤はφ2×3cm大で表面は自壊し出血しやすい状態にありました。
そこでオーナーと相談の上、犬に負担の少ないインターフェロン療法を行うこととしました。
犬のアトピー性皮膚炎の治療薬であるインタードッグ注を効能外使用となることを了承いただきました。
人では色々ながんに対してインターフェロン療法が行われていますが、犬で効果が認められた報告があるのは肥満細胞腫、悪性メラノーマ、リンパ腫などの一部の症例に限られています。
インターフェロン療法を行いながらも腫瘍は増大を続けました。

その後、腫瘤は急速に増大し、自壊と出血が認められました。
再度の対症的外科切除も検討しましたが、腫瘍は顎下の皮膚まで浸潤し、顎骨を含めた拡大切除が必要となります。
抗がん剤を使った化学療法も一般的には大きな腫瘍に対する効果は期待できません。
そこで抗がん剤の腫瘍内局所注射を試すことにしました。


ブレオマイシンは通常は皮下投与などで使用していますが、腫瘍内に注射をすることで局所での薬剤濃度上昇による効果を期待しました。また、以前より使用している抗生物質や非ステロイド系消炎鎮痛剤の投与は継続しました。

注射は無麻酔にて保定し、極細針を使用し腫瘍内に数方向刺入し注入しました。
ブレオマイシン注射の1週後には腫瘍の大きさの変化は認めませんでしたが、膿のようなにおいが強くなりました。

2回目のブレオマイシン腫瘍内局注後より徐々に腫瘍の縮小を認めました。
以下に治療経過の比較画像を示します。

2回目局所投与時。わずかに縮小傾向を認めました。


5回目局所投与時。明らかな縮小を認め、腫瘍からの出血や臭いも軽減しました。


8回目投与時。しこりは痕跡程度となり局所投与はできず、皮下投与としました。

ブレオマイシンによる化学療法の期間を通して明らかな副反応は認めず、白血球の高値や貧血は徐々に改善しました。

当院初診より5ヵ月。ブレオマイシン治療開始より3ヵ月現在。調子は良好で調子は良好で月に一度の検診を行っています。

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