e.消化器系腫瘍

2018年6月17日 日曜日

GIST(胃腸管間質細胞腫瘍)が疑われた犬の腹腔内腫瘍     横浜市青葉区 レオどうぶつ病院 腫瘍科


健康診断を行った12歳雌ののシーズー。
腹部のレントゲン検査で下腹部に腫瘤を発見した。


エコー検査では腫瘤は脾臓の尾部に接していたが、明らかに脾臓から連続している所見は認めなかった。
消化管からの発生の可能性もあったが、嘔吐や下痢等の消化器症状は認めなかった。
明らかに切除不能の所見はなく、切除生検を目的に開腹手術を行った。

下腹部正中切開を行うと腹膜直下に腫瘤を認めた。
腫瘤を引き出すと回腸より発生していた。
腫瘤を挟む両端の正常な腸管で切除した。


腸管の切除断端を端々縫合し常法通り閉腹した。

切除した腫瘤は腸管の漿膜面より発生していた。


肉眼上は腫瘤の腸管内腔への突出は認めなかった。

病理組織検査の結果は非上皮性悪性固形腫瘍と診断された。
免疫染色の結果から典型的な所見は認められなかったが
GIST(胃腸管間質細胞腫瘍)の可能性が疑われた。

手術翌日より液体状の消化器疾患用療法食を開始し、退院した。
順調に流動食を食べていたが排便がなく、術後5日目に元気・食欲の廃絶と嘔吐が認められた。
レントゲン検査から明らかな腸閉塞等の所見は認めなかったが、術後合併症である腹膜炎の可能性も疑われた。
その後、黒色の軟便を排出し始めた。徐々に便の色は茶色くなり始め食欲も戻り、術後10日目に抜糸した。

術後5ヶ月現在、食欲旺盛であり、腫瘍の再発や転移に関して経過観察中である。

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2014年12月29日 月曜日

切除によりQOLの改善した犬の肝臓に発生した巨大腫瘍

16歳の犬が2週間前より食欲低下により動物病院受診し、腹腔内巨大腫瘤の存在を指摘された。

手術は不能とのことで光線温熱療法を希望して当院に来院された。
初診時、レントゲン検査でバリウム造影により消化管をマーキングすると、腫瘤は胃を頭背側に腸管を尾背側に圧迫して存在していた。

エコー検査ではφ11cm大の腫瘤はほぼ全周を確認できたが脾臓との連続はなく、肝臓の腫瘤が疑われた。
この1週間で腫瘤による消化管の圧迫からか食欲が廃絶していた。
光線温熱療法をご希望であったが効果が現れるまでの時間的な余裕はなく、リスクは伴うが可能性に賭けた腫瘤摘出術をお勧めした。何とか摘出が可能であった場合には圧迫が解除されQOL(生活の質)の改善が期待された。
利点、欠点を検討された結果、オーナーの希望により当院で肝臓腫瘤摘出手術を実施した。当日は獣医腫瘍外科医の林先生を招いて行った。

お腹はパンパンに張り、今にも弾けそうだ。少しの衝撃でも肝臓腫瘤の破裂の危険性があった。

開腹するとすぐに腫瘤が現れた。多数の嚢胞からなる腫瘤の破裂がすでにいくつもあり、周囲の膜組織との癒着が認められた。
癒着を慎重に剝離していくと腫瘤の基部は細くなっており、肝臓の内側左葉に連続しているのが確認できた。

腫瘤基部の正常に見える肝臓部分で結紮し離断した。
手術での大きな出血もなかったが、術後しばらくは貧血が徐々に進み、なかなか炎症も治まらなかった。

術後10日で退院し、少しずつ食欲が戻ってきた。
病理組織検査の結果は非上皮性悪性腫瘍であった。

術後2週間で抜糸をした。お腹はすっきりして食欲は戻りつつあった。
炎症も落ち着き始め、貧血も徐々に改善してきた。

術後2カ月の検診時には食欲も元気も戻り、転移を疑う所見も認めなかった。

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2014年9月30日 火曜日

血便を繰り返すミニチュアダックスの直腸ポリープ

17歳齢、雄のミニチュアダックスが1か月前より時々便に鮮血が付着すると来院した。
最近になり下血の量や回数が増えて元気や食欲がなくなったとのことだった。

直腸検査を行うと肛門から約6cm入った直腸に狭窄部位を認めた。検査に使用したグローブには少量の鮮血が付着した。

直腸がんの可能性もあるが、高齢のため積極的な外科治療などは希望はない。
そこで今回はミニチュアダックスに多い直腸の炎症性ポリープの可能性も考慮して消炎鎮痛剤であるピロキシカムを処方した。

ピロキシカムを服用し始めて4回目の投薬時には血便が軽減し、元気になってきた。食欲が増して体重の増加が認められた。服用2週間目の診察では体重が増えすぎて食事量を制限しているとの事だった。直腸検査では前回認められた狭窄の軽減を認めた。有形便の表面に少量の鮮血が付着することもあるが、オーナーはQOL(生活の質)の劇的な改善に大変満足され、治療を継続している。

ミニチュアダックスの飼育頭数の多い日本では、ミニチュアダックスの結腸直腸に炎症性ポリープが多発することが報告されている。これらは粘膜の潰瘍化と出血を起こす。治療には外科療法の他にステロイドや非ステロイド系消炎鎮痛剤、免疫を調整する薬等の効果が報告されている。

ピロキシカムは非ステロイド系消炎鎮痛剤であり、消炎効果のみならず膀胱移行上皮癌を始め多くのがんの増殖抑制効果も認められる薬である。今回はピロキシカム単独の治療に非常に良く反応した。長期継続には胃潰瘍の発現や腎機能の低下などに気を付ける必要がある。

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