c.乳腺腫瘍

2019年7月27日 土曜日

高齢猫に増大した乳腺腫瘍の管理 猫用エリザベスウェア     横浜市青葉区 レオどうぶつ病院 腫瘍科


犬の乳腺腫瘍は良性と悪性の比率が半々ですが、猫の乳腺腫瘍8割以上が悪性であると言われています。
悪性の乳腺腫瘍は進行すると肺転移を起こしますので、なるべく早期にしこりだけでなく、片側乳腺組織全切除をすることが効果的です。

症例は21歳の超高齢猫さん。人の年齢では100歳になります。
数ヶ月前に見つけた腹部のしこりが急速に増大してきました。

来院時、右第4乳腺部にφ3.4×2.8cm
本人も気になって舐めるので、しこりの表面は自壊しています。
猫の悪性乳腺腫瘍を疑い、治療法を検討しました。

腫瘍の進行度からは肺転移が出てくる可能性があります。
21歳の高齢であることからオーナーとの相談の上、積極的な外科切除は行わず、QOL(生活の質)の維持に努めることとなりました。

自壊した腫瘍の保護に、ぴったりサイズの猫用エリザベスウェアをご用意しました。
毎日の創部の処置時にはすぐに脱がせることができ、着用したまま排泄も可能です。

エリザベスカラーを装着するストレスもないので、服を着ることに抵抗のないネコちゃんにはお勧めです。

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2018年6月 8日 金曜日

犬の乳腺腫瘍に対する低侵襲手術と術後管理           横浜市青葉区 レオどうぶつ病院 腫瘍科 



11歳のオーストラリアンケルピーの女の子が乳腺部のしこりに気づき来院しました。
左第3乳腺部に存在するしこりはφ2.3×1.8cmで硬く、乳頭から連続しており、底部の筋層との固着はありません。
この2週間で増大が認められています。

また、1年半前に右前胸部皮下に発見し、細胞診で脂肪腫を疑っている腫瘤も増大してきているとのことでした。

術前の左第3乳腺部腫瘤の細胞診では悪性乳腺腫瘍を疑いました。

顕微鏡写真は乳腺部腫瘤の細胞診で悪性所見が認められる。(乳腺腫瘍の細胞診では良悪の判定はできないと言われているが、悪性所見が認められる場合は病理検査の結果も悪性であることが多い)

画像検査より明らかな転移を疑う所見はなく、ステージ1の悪性乳腺腫瘍を疑い根治目的の外科手術をすることになりました。
右胸壁皮下腫瘤は良性の脂肪腫の疑いでしたが徐々に増大が認められ、オーナーの希望から同時に摘出することとしました。


乳腺腫瘍の摘出術には乳腺組織全摘出などの拡大切除の術式もありますが、最近の報告により術後生存期間には手術の大きさよりも腫瘍の悪性度や転移所見が関与することが分かってきました。患者の年齢や想定する腫瘍の種類を総合的に判断し、低侵襲でありながら効果のあると考えられる術式を検討しました。

左第3乳腺部のしこりは周囲の正常な乳腺組織を含めての切除を、右胸壁の皮下腫瘤は直上の皮膚切開をしての切除を行うこととしました。


左第3乳腺部のしこりは、周囲の正常な乳腺組織を含めて切除しました。腫瘤底部の固着は認められません。


右胸壁皮下腫瘤は直上の皮膚を切開し、腫瘤を周囲組織と鈍性に剥離し摘出しました。

術後は傷口を舐めないようにエリザベスウェアーを着用しました。
術後の経過は非常に良好で翌日に退院しました。

後日、病理検査の結果は左第3乳腺部は悪性筋上皮細胞腫と、右胸壁皮下腫瘤は脂肪腫と診断されました。
ご希望によっては術後の補助的化学療法も適応となりますが、ステージ1の段階で外科手術により腫瘍を切除できましたので、今後は再発や転移を注意しながら経過観察をしていきます。



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2017年1月20日 金曜日

悪性乳腺腫瘍の表層に肥満細胞腫が同時発生した犬の1例     レオどうぶつ病院腫瘍科 青葉区 鴨志田町 大場町 恩田町


11歳齢、雌のロングコートチワワ。昨夜、乳腺部のしこり見つけて来院しました。

腫瘤は右第5乳腺部皮下に存在し、皮膚や底部組織への固着は認めませんでした。
腫瘤はφ8×6㎜大で硬く、表層の皮膚には内出血斑がありましたが、気にして舐めているわけではなく、自壊もしていませんでした。

腫瘤の細胞診を行うとシート状に細胞集塊が採取され、存在部位から乳腺腫瘍を疑いました。
触診上、鼠径リンパ節の腫脹はなく、胸部X線検査で肺転移を疑う所見はありません。

T1N0M0 ステージⅠの乳腺腫瘍疑いと診断しました。

身体検査ではLevine6/6の心雑音を聴取し、心エコー検査で僧帽弁の逆流像を認めました。X線検査では心拡大に伴う気管の挙上を認めました。興奮時には常にチアノーゼを起こすとのことで、まずは僧帽弁閉鎖不全症の治療としてACE阻害剤の投薬を開始しました。

20日後の再診時、乳腺部腫瘤はわずかに増大しており、右の第3乳腺部にも5㎜大の小腫瘤を認めました。

重度心不全のために全身麻酔のリスクは高く、乳腺腫瘍に関しては経過を観察する選択肢を提示しました。
しかし、以前飼われていた犬を乳がんの肺転移で亡くしていた飼い主さんは、たとえ麻酔のリスクがあっても乳腺腫瘍の早期切除をご希望されました。

そこで、なるべく短時間で済ませるように乳腺部分切除術を行うこと、麻酔が安定していた場合には同時に卵巣切除術を計画しました。毎回の発情時に偽妊娠症状を示すとのことから、乳腺腫瘍の発生には性ホルモン分泌異常の関与が疑われました。

手術は心配した麻酔も安定しており、予定通り避妊手術まで行えました。

病理検査の結果
右第3乳腺部は良性腫瘍である乳腺腺腫。
右第5乳腺部は悪性乳腺混合腫瘍。
右第5乳腺部の表層の内出血部位は肥満細胞腫グレードⅠ-Ⅱと診断されました。

術後の経過は良好で、術後1年が過ぎた現在、再発や転移は認めず元気に過ごしています。

今回、乳腺腫瘍の表層の皮膚に肥満細胞腫が発生した珍しいケースですが、乳腺腫瘍と肥満細胞腫の発生に直接の関連があるという報告はありません。術前の細胞診では硬いしこりの部分に針を刺入したため乳腺腫瘍の細胞のみが採取されましたが、表層の内出血のある部分を吸引していたら肥満細胞腫が術前診断できていたかもしれません。肥満細胞腫と分かっていた場合には、もっと大きく切除することを検討したかもしれません。今回、短時間で小さな切除で済ませ、再発せずに済んだのはラッキーだったのかもしれません。

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2017年1月 8日 日曜日

三年かけて増大した犬の乳腺腫瘍② レオどうぶつ病院腫瘍科   青葉区 桂台 桜台 榎が丘 しらとり台 つつじが丘


前回までのお話
10歳雌のミニチュアダックス。3年前に発見した乳腺部のしこりが徐々に増数増大し、左右両側の乳腺全域に9カ所のしこりが確認されました。

手術の話を聞いてから怖くなり、3年間治療をためらわれていましたが、犬の乳腺腫瘍に関して以下のような説明をいたしました。
犬の乳腺腫瘍の良悪比率は約50%であり、複数個あるしこりの半分はがんの可能性もあるということ。この3年間で進行し、大きさでいうとステージⅡであり、転移をするリスクが高まっていること。肺に転移をしてしまったら、手術で治すことは難しいこと。
飼い主さんは手術をする決心をされました。
両側の乳腺組織全域にしこりが散在していることから手術は2回に分けて、初回手術では最大のしこりを含む右側乳腺全切除とリンパ節郭清、卵巣子宮摘出術を行いました。

病理検査の結果は最大のしこりを含め、いずれも良性で乳腺腺腫、良性乳腺混合腫瘍と診断されました。
フェンタニルパッチの鎮痛効果により、手術当日の夜から食事も食べました。心配していた入院も落ち着いて過ごせ、4日後に退院しました。

その後のお話
1か月後に残存している左側乳腺全切除術とリンパ節郭清を行いました。

病理検査の結果、いくつかあるしこりのうちの一つ(矢印)が低悪性度の悪性乳腺混合腫瘍と診断されました。他はすべて良性の乳腺腫瘍でした。手術ではいずれの腫瘍も取り切れており、脈管内浸潤やリンパ節転移は確認されませんでした。

術後は前回同様にフェンタニルパッチで鎮痛を行い、術後衣のエリザベスウェアを着用することで快適に過ごせました。乳がんに対する術後補助療法も検討しましたが、経過観察することとなりました。その後、術後6か月の検診において再発や転移は認められず元気に過ごしています。

米国では犬の不妊手術の実施率が高いため乳腺腫瘍の発生率は低いようですが、わが国では雌犬に発生する悪性腫瘍の上位に入ります。
乳腺腫瘍を発見したら、増大して遠隔転移を始める前のステージで手術をすることで根治率が上がります。



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2016年9月 7日 水曜日

三年かけて増数増大した犬の乳腺腫瘍 レオどうぶつ病院腫瘍科 青葉区 桂台 桜台 みたけ台 たちばな台

10歳のミニチュアダックスの女の子。

3年前に乳腺部にφ1‐2㎜の小さなしこりを二つ発見しました。
2年前には3カ所に増え、大きさも最大のものでφ1㎝に増大しました。
その後、いくつかの病院で乳腺腫瘍の切除手術を勧められましたが、怖くなりそのままになっていました。

当院初診時、最大のしこりはφ4㎝。左右両側の乳腺全域に9カ所のしこりが散在していました。

飼い主さんの心配は手術の痛み、麻酔のリスク、何よりこの子は入院することは無理だろうとの事でした。
そこで、乳腺腫瘍について詳しく説明を行いました。

犬の乳腺腫瘍の良悪比率は約50%であり、複数個あるしこりの半分はがんの可能性もあるということ。
この3年間で進行し、大きさでいうとステージⅡであり、転移をするリスクが高まっていること。
肺に転移をしてしまったら、手術で治すことは難しいこと。

お話をしているうちに飼い主さんの心配事は、早くしないと手術の機を逸してしまい、命を落とす可能性がある事に変わっていました。

次に手術方法を検討しました。
この数年間で大きさの変化だけでなくしこりの数も増えてきているので同時に卵巣摘出術もおこなった方が良いと判断しました
。毎回の発情後には偽妊娠が認められ、ホルモン分泌異常も腫瘍の増数増大に関連していることが疑われます。

両側の乳腺組織全域にしこりが散在していることから手術は2回に分けて、初回手術では最大のしこりを含む右側乳腺全切除とリンパ節郭清、卵巣子宮摘出術を計画しました。

痛みに関してはモルヒネの注射とフェンタニルパッチを使用して対応することとしました。

入院に関してリスクは伴いますが、回復状態によっては早めに退院して通院で対応する選択肢も提示しました。

術前の血液検査では異常はなく、触診とレントゲン検査ではリンパ節の腫大はなく、肺転移を疑う所見もありませんでした。
そこで腫瘍の進行度はT2N0M0ステージⅡの乳腺腫瘍の疑いで手術を行いました。






フェンタニルパッチにより痛みが緩和されたためか、手術当日の夜から食事も食べました。
心配していた入院も落ち着いて過ごせ、4日間の入院後に退院しました。


病理検査の結果は最大のしこりを含め、いずれも良性で乳腺腺腫、良性乳腺混合腫瘍と診断されました。
1か月後に反対側の乳腺腫瘍の手術予定を行う予定としました。

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