c.乳腺腫瘍

2017年1月20日 金曜日

悪性乳腺腫瘍の表層に肥満細胞腫が同時発生した犬の1例     レオどうぶつ病院腫瘍科 青葉区 鴨志田町 大場町 恩田町


11歳齢、雌のロングコートチワワ。昨夜、乳腺部のしこり見つけて来院しました。

腫瘤は右第5乳腺部皮下に存在し、皮膚や底部組織への固着は認めませんでした。
腫瘤はφ8×6㎜大で硬く、表層の皮膚には内出血斑がありましたが、気にして舐めているわけではなく、自壊もしていませんでした。

腫瘤の細胞診を行うとシート状に細胞集塊が採取され、存在部位から乳腺腫瘍を疑いました。
触診上、鼠径リンパ節の腫脹はなく、胸部X線検査で肺転移を疑う所見はありません。

T1N0M0 ステージⅠの乳腺腫瘍疑いと診断しました。

身体検査ではLevine6/6の心雑音を聴取し、心エコー検査で僧帽弁の逆流像を認めました。X線検査では心拡大に伴う気管の挙上を認めました。興奮時には常にチアノーゼを起こすとのことで、まずは僧帽弁閉鎖不全症の治療としてACE阻害剤の投薬を開始しました。

20日後の再診時、乳腺部腫瘤はわずかに増大しており、右の第3乳腺部にも5㎜大の小腫瘤を認めました。

重度心不全のために全身麻酔のリスクは高く、乳腺腫瘍に関しては経過を観察する選択肢を提示しました。
しかし、以前飼われていた犬を乳がんの肺転移で亡くしていた飼い主さんは、たとえ麻酔のリスクがあっても乳腺腫瘍の早期切除をご希望されました。

そこで、なるべく短時間で済ませるように乳腺部分切除術を行うこと、麻酔が安定していた場合には同時に卵巣切除術を計画しました。毎回の発情時に偽妊娠症状を示すとのことから、乳腺腫瘍の発生には性ホルモン分泌異常の関与が疑われました。

手術は心配した麻酔も安定しており、予定通り避妊手術まで行えました。

病理検査の結果
右第3乳腺部は良性腫瘍である乳腺腺腫。
右第5乳腺部は悪性乳腺混合腫瘍。
右第5乳腺部の表層の内出血部位は肥満細胞腫グレードⅠ-Ⅱと診断されました。

術後の経過は良好で、術後1年が過ぎた現在、再発や転移は認めず元気に過ごしています。

今回、乳腺腫瘍の表層の皮膚に肥満細胞腫が発生した珍しいケースですが、乳腺腫瘍と肥満細胞腫の発生に直接の関連があるという報告はありません。術前の細胞診では硬いしこりの部分に針を刺入したため乳腺腫瘍の細胞のみが採取されましたが、表層の内出血のある部分を吸引していたら肥満細胞腫が術前診断できていたかもしれません。肥満細胞腫と分かっていた場合には、もっと大きく切除することを検討したかもしれません。今回、短時間で小さな切除で済ませ、再発せずに済んだのはラッキーだったのかもしれません。

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2017年1月 8日 日曜日

三年かけて増大した犬の乳腺腫瘍② レオどうぶつ病院腫瘍科   青葉区 桂台 桜台 榎が丘 しらとり台 つつじが丘


前回までのお話
10歳雌のミニチュアダックス。3年前に発見した乳腺部のしこりが徐々に増数増大し、左右両側の乳腺全域に9カ所のしこりが確認されました。

手術の話を聞いてから怖くなり、3年間治療をためらわれていましたが、犬の乳腺腫瘍に関して以下のような説明をいたしました。
犬の乳腺腫瘍の良悪比率は約50%であり、複数個あるしこりの半分はがんの可能性もあるということ。この3年間で進行し、大きさでいうとステージⅡであり、転移をするリスクが高まっていること。肺に転移をしてしまったら、手術で治すことは難しいこと。
飼い主さんは手術をする決心をされました。
両側の乳腺組織全域にしこりが散在していることから手術は2回に分けて、初回手術では最大のしこりを含む右側乳腺全切除とリンパ節郭清、卵巣子宮摘出術を行いました。

病理検査の結果は最大のしこりを含め、いずれも良性で乳腺腺腫、良性乳腺混合腫瘍と診断されました。
フェンタニルパッチの鎮痛効果により、手術当日の夜から食事も食べました。心配していた入院も落ち着いて過ごせ、4日後に退院しました。

その後のお話
1か月後に残存している左側乳腺全切除術とリンパ節郭清を行いました。

病理検査の結果、いくつかあるしこりのうちの一つ(矢印)が低悪性度の悪性乳腺混合腫瘍と診断されました。他はすべて良性の乳腺腫瘍でした。手術ではいずれの腫瘍も取り切れており、脈管内浸潤やリンパ節転移は確認されませんでした。

術後は前回同様にフェンタニルパッチで鎮痛を行い、術後衣のエリザベスウェアを着用することで快適に過ごせました。乳がんに対する術後補助療法も検討しましたが、経過観察することとなりました。その後、術後6か月の検診において再発や転移は認められず元気に過ごしています。

米国では犬の不妊手術の実施率が高いため乳腺腫瘍の発生率は低いようですが、わが国では雌犬に発生する悪性腫瘍の上位に入ります。
乳腺腫瘍を発見したら、増大して遠隔転移を始める前のステージで手術をすることで根治率が上がります。



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2016年9月 7日 水曜日

三年かけて増数増大した犬の乳腺腫瘍 レオどうぶつ病院腫瘍科 青葉区 桂台 桜台 みたけ台 たちばな台

10歳のミニチュアダックスの女の子。

3年前に乳腺部にφ1‐2㎜の小さなしこりを二つ発見しました。
2年前には3カ所に増え、大きさも最大のものでφ1㎝に増大しました。
その後、いくつかの病院で乳腺腫瘍の切除手術を勧められましたが、怖くなりそのままになっていました。

当院初診時、最大のしこりはφ4㎝。左右両側の乳腺全域に9カ所のしこりが散在していました。

飼い主さんの心配は手術の痛み、麻酔のリスク、何よりこの子は入院することは無理だろうとの事でした。
そこで、乳腺腫瘍について詳しく説明を行いました。

犬の乳腺腫瘍の良悪比率は約50%であり、複数個あるしこりの半分はがんの可能性もあるということ。
この3年間で進行し、大きさでいうとステージⅡであり、転移をするリスクが高まっていること。
肺に転移をしてしまったら、手術で治すことは難しいこと。

お話をしているうちに飼い主さんの心配事は、早くしないと手術の機を逸してしまい、命を落とす可能性がある事に変わっていました。

次に手術方法を検討しました。
この数年間で大きさの変化だけでなくしこりの数も増えてきているので同時に卵巣摘出術もおこなった方が良いと判断しました
。毎回の発情後には偽妊娠が認められ、ホルモン分泌異常も腫瘍の増数増大に関連していることが疑われます。

両側の乳腺組織全域にしこりが散在していることから手術は2回に分けて、初回手術では最大のしこりを含む右側乳腺全切除とリンパ節郭清、卵巣子宮摘出術を計画しました。

痛みに関してはモルヒネの注射とフェンタニルパッチを使用して対応することとしました。

入院に関してリスクは伴いますが、回復状態によっては早めに退院して通院で対応する選択肢も提示しました。

術前の血液検査では異常はなく、触診とレントゲン検査ではリンパ節の腫大はなく、肺転移を疑う所見もありませんでした。
そこで腫瘍の進行度はT2N0M0ステージⅡの乳腺腫瘍の疑いで手術を行いました。






フェンタニルパッチにより痛みが緩和されたためか、手術当日の夜から食事も食べました。
心配していた入院も落ち着いて過ごせ、4日間の入院後に退院しました。


病理検査の結果は最大のしこりを含め、いずれも良性で乳腺腺腫、良性乳腺混合腫瘍と診断されました。
1か月後に反対側の乳腺腫瘍の手術予定を行う予定としました。

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2014年6月24日 火曜日

細胞診や増大傾向だけでは分からない犬の乳腺腫瘍の良悪

症例① トイ・プードル  10歳 未避妊雌(出産歴あり)

4年前に発見したφ0.4㎝に乳腺部のしこりが徐々に増大。3か月前に急速増大し外科切除をお勧めしたが、しこりの内部に貯留した液体の吸引除去により軽度縮小し、貯留液の細胞診では乳腺炎を疑う所見があったため抗生剤の投与を行った。

その後も増大しては吸引除去を繰り返していたが、徐々にしこりが吸引除去できない内容に変化してきた。いずれにせよこのまま増大を続ければしこりの自壊から生活の質は落ちることが予想され、外科切除に踏み切った。

乳腺部には右側第3乳腺部φ1.4×0.9㎝と右側第4‐5乳腺部にφ5.8×3.8×3.3㎝の巨大な腫瘤が存在していた。術前の画像検査からは転移を疑う所見は認めなかった。悪性ならば進行度はT3N0M0ステージⅢの乳腺腫瘍を疑い、右側第3‐5乳腺切除とソケイリンパ節廓清を行った。



病理組織検査の結果はいずれも良性乳腺混合腫瘍であり、手術にて完治した。


症例② ミニチュア・ダックスフント  6歳 未避妊雌
10ヶ月前にφ0.9㎝大の乳腺部のしこりを発見した。細胞診にて上皮系細胞集塊を認め乳腺腫瘍を疑った。しばらく増大は認められなかったが、2か月前より増大傾向を認めたため外科切除をお勧めした。

腫瘤は右側第2乳腺部皮下に遊離して存在しφ1.3×1.2×1.0㎝大に増大していた。領域リンパ節や肺には転移を疑う所見はなく、悪性ならば進行度はT1N0M0ステージⅠの乳腺腫瘍を疑い、右側第2乳腺部分房切除術と同時に今後の残存乳腺組織への新病変発生のリスクを下げる目的で卵巣子宮摘出術を行った。


病理検査の結果は悪性乳腺混合腫瘍であり、初期の段階での完全切除により根治の可能性もあり経過観察中である。


犬の乳腺腫瘍では良性であっても炎症を伴う場合や乳汁など液体の貯留がある場合には急速増大が認められる。一方、細胞診で明らかな悪性所見がなく比較的ゆっくりとした増大を認める場合でも今回のように悪性腫瘍のことがあり注意が必要である。

乳腺腫瘍を疑う場合には増大傾向や細胞診を含めた総合的な臨床所見から適切な手術時期を見極めること。進行度や年齢、基礎疾患の有無などから的確な手術目的の設定と術式の決定が大切である。

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